
記憶の螺旋は、千賀健史の作品シリーズ「まだらの犬」による個人の意識と経験に対する考察から、人類移動の歴史の中で追い求めつつあるアイデンティティにつながる「故郷」への追憶と探求に視点を移しました。20世紀初期に大連で生まれ育った日本人作家清岡卓行;20世紀、サンフランシスコ‧チャイナタウンのエンターテインメント界で活躍していた高齢の華人女性たち:「Forbidden City Nightclub」最後の経営者で伝説のダンサーである余金巧(Coby Yee)、チャイナタウンのガイドを務める引退したダンサーの方美仙(Cynthia Yee)、上海から来た元雑誌モデルの女性吳錫錫(Ceecee Wu);さらに、サンフランシスコと広東省台山で暮らす全く異なる運命をたどる異母姉妹。
本展では、楊圓圓が2017年以来制作した5本の映像作品が展示されています。これらの作品は、登場人物の私的経験や家族史を手がかりに、アーティストが介入することで、現実と非現実の境界線上に、時の流れにより徐々に疎外された「故郷」への記憶、認識、経験を「今」につなげ、忘却の海に沈んでしまった人類の歴史の断片を拾いあげ、それらを温かみを持った形で現実に連れ戻しました。
楊圓圓の作品は、特定の場所を中心にした個人の経験を取り上げ、歴史資料や文献を参照しつつ、イメージと言葉を用いて創作されています。彼女は実在と虚構の要素を組み合わせることで、作品を通じ、従来の歴史の解釈に挑戦し、忘れ去られたもの、沈黙させたもの、捻じ曲げられたものに焦点を当てます。近年、楊圓圓のプロジェクトは主に20世紀の移民と戦争の歴史をテーマにしています。それらの主体、場所、時代は異なるものの、微妙な関連性をもちつつも、繋がりがあるように思われます。
ARTiX³


楊圓圓
『大連ミラージュ:序章』
2018-2019
single-channel HD video
7′39″
By courtesy of AIKE Gallery
『大連ミラージュ』(2017-2019年)は、大連の近代史を背景に、写真、インスタレーション、映像、サウンドなどの複数のメディアを通じ、都市を舞台とした「七幕劇」を描いた。異なる時代から来た人物が港、階段、広場、旅館、街、劇場などの空間を行き交う。大連ミラージュの世界の中で、時空と国の境界が曖昧となり、観客はまるで過去と現在の間のパラレルワールドに漂うかのように感じさせる。異郷の人々の儚い幻のようなモノローグの中、何百年にわたっても解決不可能な問いかけがかすかに響いている ー 「故郷とは何か。」


楊圓圓+Carlo Nasisse
『Coby and Stephen Are in Love』
2019
single-channel HD video
30′41″
余金巧(コビー‧イー、Coby Yee)、92歳、引退したナイトクラブのダンサー、サンフランシスコ‧チャイナタウン黄金時代のアイコンであった。スティーブン‧キング(Stephen King)、74歳、反戦運動が盛んだ1960年代以来、実験映画の監督として活動していた。まったく異なる二人は、晩年にダンスフロアーで恋に落ちた。コビーはスティーブンのスタイリストとして、スティーブンのクローゼットを一新した。一緒に外出するたびに、彼らは頭から足元までコビーがデザインしたペアルックの服装を身に着ける。一方、スティーブンはコビーのアーキビスト。彼女が一生をかけて蓄積されたダンサーとしての写真は、彼を魅了して、彼の創作意欲を再び燃え立たせた。ラスベガスでの最後の公演が迫る中、コビーとスティーブンは二人での別れの踊りを準備し始める。


楊圓圓
『上海から来た女』
2019
single-channel HD video
16′24″
サンフランシスコで人生の大半を過ごしてきた78歳の吳錫錫(Ceecee Wu)は、常に自分自身を「上海から来た女」と考えている。同様に、101歳で記憶喪失になってしまった彼女の母親も、毎日口ごもりながら「ここはどこ?上海にいるの?」と言う。三人目の夫を探す際に、彼女は上海出身の男性だけを考えることさえあった。この映画では、吳錫錫が上海出身の元旦那との愛の日記を見せ、二人が言語や距離の制約を乗り越え、千年紀に出会い系サイトで結ばれた愛の物語を語った。


楊圓圓
『チャイナタウン物語』
2019
single-channel HD video
19′11″
映画はサンフランシスコ‧チャイナタウンでの散策から始まる。1940年代の映画『上海から来た女』(オーソン‧ウェルズ監督)のシーンに続き、残った最後のチャイナタウンの映画館に足を踏み入れ、次に「上海楼」から「紫禁城ナイトクラブ」まで歩く。カメラは華人のダンサーである方美仙(Cynthia Yee)、歴史学者の王万力(Wylie Wong)、李萱颐(David Lei)の足跡に従い、時空を交差する旅に踏み出す。


楊圓圓
『アメリカの親戚』
2022
single-channel HD video
26′28″
『アメリカの親戚』は、サンフランシスコと広東省台山の二か所で撮影された物語である。映像の前半では、中国系アメリカ人の周碧華(Pat Chu Nishimoto)が、彼女の若い頃に亡くなった父親が長年にわたり隠していた秘密を明かす。1980年、中国本土で改革開放政策が始まった頃、彼女と姉妹たちは初めて父親の故郷に訪れ、ここに異母の親戚がいることを知った。映像の後半では、周碧華の中国の親戚たちが、先祖の家の物語をじっくりと語る。今や、父親の代の人々がアメリカで生計を立てるために船出した苦労が込められた先祖代々の家は、中国の都市化の過程で急速に消えつつある…
[ アーティスト·トーク]
千賀健史x楊圓圓
ゲスト司会者
李佳
開催日:2023年12月9日(土)
14:00−16:00
会場:ARTiX³
言語:日本語·中国語
定員:15名(会場観覧)
参加費:
会場観覧:1000 円(要予約/当日現金でお支払い下さい)
「JCA COMMUNITY」メンバー:無料(要予約)
申込み方法:
お申し込み方法: 電子メール、またはWeChatにて下記申込先までご連絡下さい。定員に達し次第受付終了いたします。
お申し込みの際は件名「アーティスト·トーク③参加 」とし、お名前、ご連絡先(電話番号、WeChatのいずれか)を明記の上お申込み下さい。
[ 例 ]
件名:アーティスト·トーク③
名前:根岸 三子
電話番号:03-6458-1868 / WeChat:JCA_Association
申込先:
MAIL:info@jca3.art
WeChat:JCA_Association
WeChat:申込用QRコード
[ 申し込みのご注意 ]
■ お電話でのお申し込みは受け付けておりませんのでご了承下さい。
■ 本文にはお名前、ご連絡先を明記下さい。
■ 会場観覧·参加の場合、席に限りがございますので、キャンセルの場合にはお早めにご連絡頂きますようお願い致します。
■ お申し込みいただきましたら折り返し電子メール、またはWeChatでご連絡差し上げます。
■ ご記入いただいた個人情報は、上記の利用目的のみに使用し、第三者に提供することはございません
[ ゲスト司会者]
李佳
北京在住のインディペンデント‧キュレーター、物書き。アート業界で10年以上の経験を持ち、ギャラリーペース北京の副ディレクター(2012-2015)、泰康スペースのシニアキュレーター(2015-2020)などを経て独立。近年キュレーションした展覧会は、「Walking Guidance」(ロング‧マーチ、北京、2023年)、「Spatial Triad @第1回クラウド彫刻学術企画展」(松美術館、北京、2023年)、「張曉剛:蜉蝣」(龍美術館、上海、2023年)、「Meet You at the Corner! ——Dangxia Young Artist Award 2022 」(Dangxia Art Space、北京、2022年)、「In the midst of it all 」(金鷹美術館、南京、2021年)、「Hometown Series No.1: Hai Bo’s Northland 」(坪山美術館、深セン、2020年)、「飢餓地理」(泰康スペース、北京、2019年)、「Other Lives of the Alternative Spaces 」(泰康スペース、北京、2019年)、「Genders Engender 」(泰康スペース、北京、2018年)、「漂流」(Hyundai Motorstudio Beijing、北京、2018年)、「Day Light Pavilion Series 」シリーズ展など。
2017年、第1回Hyundai Blue Prize Creativity賞を受賞。2021年、アジアン‧カルチュラル‧カウンシル(ACC)のフェローシップに選ばれた。2022年から2023年、De Ying Foundation初代キュレーターを務めた。
李佳は『Artforum』、『LEAP』、『燃点』など、国内外のアート雑誌の常連寄稿者。アートレビューは『Artforum』、『ArtAsiaPacific』、『Flash Art』、『YISHU』などの国際的な雑誌に掲載。 北京大学法学部及び同大学中国経済研究センターを卒業、法学と経済学の学士号を取得。また北京大学芸術学院で美術史の修士号を取得。

